私たちは食事をすると、ご飯やパンなどの炭水化物は胃や腸で分解されブドウ糖となり、血液の中に入り全身に運ばれます。このブドウ糖は、すい臓のβ(ベータ)細胞から分泌されるインスリンというホルモンにより細胞内に取り込まれ、私たちが活動するために必要なエネルギーになります。また、インスリンの働きによって血液中のブドウ糖(血糖値)が一定に保たれています。
糖尿病とは、インスリンの分泌が低下したり、インスリンの働きが悪くなったりして、血糖値が慢性的に高くなる病気のことです。
高血糖が長く続くと血管を傷つけ、全身の血管に障害を起こします。その結果、眼や腎臓、神経をやしなう細い血管が障害され、網膜症、腎症、神経障害などいわゆる“三大合併症”を引き起こします。重症化すると、失明、血液透析、下肢切断など、日常生活に極めて大きな支障を生じます。また、全身の太い血管まで動脈硬化が進み、脳梗塞や心筋梗塞、末梢動脈疾患などの病気の発症リスクも高くなります。
①1型糖尿病、②2型糖尿病、③その他の特定の機序、疾患によるもの、④妊娠糖尿病の4つに分類されます。
①1型糖尿病は、遺伝因子やウイルス感染などが誘因となり、自分のすい臓のβ細胞がこわれて(自己免疫と呼ばれます)、自分でインスリンを分泌することができなくなり発症します。
②2型糖尿病は、全ての糖尿病患者の約90%を占めるとされています。インスリンの分泌が低下したり、インスリンの働きが悪くなり起こり、原因としては、糖尿病になりやすい体質の遺伝的な要因に加え、高脂肪・高カロリー・食物繊維不足などの食生活や、運動不足、ストレスなどの生活習慣の環境の要因が深く関わっています。
③その他の特定の機序、疾患によるものは、単一遺伝子異常によるものと、すい臓・肝臓・内分泌などの病気や薬剤によって発症するものがあります。
④妊娠糖尿病は、妊娠中にはじめて見つかるまたは発症した糖尿病にいたっていない血糖値の上昇をいいます。妊娠糖尿病と診断されると、将来的に糖尿病を発症しやすいといわれています。
多くは自覚症状がありませんが、著しい高血糖になると、のどの渇き、水分をたくさん飲む、尿の量が多くでる、トイレが近い、体重が減る、つかれやすい、すぐにおなかがすくなどの症状が現れてきます。
血液検査
糖尿病と書きますが、糖尿病の診断は尿検査の尿糖ではなく、血液検査によって行われます。
血糖値は、空腹時は低く比較的安定していますが、食後は上昇し変動しやすいです。食事時間との関係を考え、血糖値が高いか低いかを判断します。
HbA1c(ヘモグロビンA1c)は、過去1~2か月の血糖値が平均してどの程度であったかがわかるため、外来での血糖コントロールの評価の良い指標となります。
その他、インスリン分泌能を評価したり、1型糖尿病が疑われる場合は、GAD抗体など自分に対する抗体(自己抗体)を調べます。
75g経口ブドウ糖負荷試験
早朝空腹時血糖値を測定後に、75gのブドウ糖が含まれたサイダーのような飲料を摂取し30分後、60分後、90分後、120分後と血糖値の変化を調べる検査です。糖尿病を発症すると空腹時の血糖値が高くなったり、摂取後の血糖値の下がりが悪くなったりするといった特徴的な結果が見られるため、糖尿病の確定診断に用いられる検査のひとつとなっています。
空腹時血糖値 126mg/dl以上、75g経口ブドウ糖負荷試験2時間値 200mg/dl以上、随時血糖値 200mg/dl以上のいずれかと、HbA1c 6.5%以上を糖尿病型といいます。
糖尿病と診断されるのは、①同日に血糖値とHbA1cがともに糖尿病型、②血糖値のみ糖尿病型の場合で、1)口渇、多飲、多尿、体重減少などの糖尿病の典型的症状、2)確実な糖尿病網膜症を認める場合、ない場合は、3)別の日に再検査し、血糖値あるいはHbA1cが糖尿病型の場合です。ただし、HbA1cのみ糖尿病型の場合は、反復検査では診断されません。
網膜症を調べるには眼底検査が重要で、定期的な眼科受診をお勧めしています。
腎症は、尿検査で微量アルブミンや尿蛋白、腎機能を調べます。
神経障害は、自覚症状や腱反射の低下、神経伝導速度などで診断します。
動脈硬化の程度を調べるには、脈波伝播速度(血管の硬さ)や足関節上腕血圧比(足の血管のつまり)、頸動脈超音波検査などを行います。
生活習慣の乱れが発症に大きく関与している2型糖尿病では、第一に原因となる食生活の乱れや運動不足を改善するように食事療法や運動療法を行います。特に食事療法は重要ですので、管理栄養士による栄養指導を受けていただき、食事内容の確認を行い食事の見直しをはかることをお勧めします。運動療法はインスリンの働きをよくするだけでなく、肥満やストレス解消にも効果的です。自分に合った運動を、無理のない範囲で継続することが大切です。診断された時点で早急な治療を要する重症な場合を除き、1~2か月ほど生活改善を行ったうえで血糖値が十分に下がらない場合は、薬物療法を行います。
▶▶経口血糖降下薬
インスリン分泌を促進する薬やインスリンの働きを良くする薬の他に、腸管での糖の吸収を遅らせ食後高血糖を改善する薬や腎臓での糖の再吸収を抑え尿から糖を出すことで血糖を下げる薬などがあります。
患者さまの病態や合併症の有無とともに薬剤特性を考え単剤を少量から開始します。血糖コントロールが目標に達しない場合には、単剤の増量や作用機序の異なる他剤を併用します。
▶▶注射薬
インスリン療法とGLP-1受容体作動薬があり、自身に合うタイプや量などを決めていきます。
▶インスリン療法
著明な高血糖状態、経口血糖降下薬のみでは良好な血糖コントロールが得られない2型糖尿病、インスリンの分泌能が大幅に低下している1型糖尿病、胎児への影響により血糖値を下げる薬を使用できない妊娠糖尿病などでは、インスリン療法が行われます。
2型糖尿病の患者さんの多くは、すい臓のβ(ベータ)細胞はインスリンの分泌能は残っています。
インスリンを出そうとがんばってつかれているすい臓のβ細胞に、早期にインスリン療法を行いすい臓のβ細胞を休ませます。すい臓のβ細胞が元気になりインスリンの分泌能を回復させ、経口血糖降下薬のみだけに戻せることがあります。
▶GLP-1受容体作動薬
食べ物を食べると小腸から出るGLP-1というインクレチンと呼ばれるホルモンの作用を利用し、血糖依存的にインスリン分泌を促進する作用があります。その他に、消化管の動きを抑えたり、食欲を抑えて体重を減少させる作用があります。
血糖コントロール目標ですが、合併症予防の観点から低血糖を起こさずに、HbA1c 7%未満を目標にします。ただし、65歳以上の高齢者に関しては、年齢、罹病期間、重症低血糖の可能性、サポート体制などに加え、認知機能、日常生活動作(ADL)、合併症などを考慮して個別に治療目標を考えます。
糖尿病治療の目標は、血糖以外にも血圧、脂質代謝の良好なコントロール状態と適正体重を維持することにより、糖尿病の合併症の発症、進展をおさえ、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)を維持し、寿命を確保することです。
自覚症状がないままに健診などで糖尿病が診断される方や、高血糖による症状が現れて糖尿病と診断される方もいれば、網膜症、腎症、神経障害の合併症が現れて、初めて糖尿病と診断される方もいます。早期発見のために積極的に医療機関を受診してください。また、自覚症状がないために治療を中断してしまうことも多々あります。血糖値が気になりましたら、思い立ったが吉日です医療機関を受診しましょう。
糖尿病は治る病気ではなく、一生お付き合いする病気です。定期的に通院し、検査や診察を受けることが大切です。